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橘病院からのお知らせ

m3.com地域版にて小島副院長のインタビューが掲載されました。
2022-07-08
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 プロサッカーのチームドクターにあこがれて整形外科医を志した橘病院(都城市)副院長の小島岳史氏。U-19サッカー日本代表のチームドクターを務めるなど、サッカー専門ドクターとして高い実績を積んだのち、サーフィン専門ドクターに転向した。スポーツドクターを目指した経緯、サーフィン専門ドクターに転向した理由、サーフィンによる怪我や治療法などについて聞いた。(2022年6月2日オンラインインタビュー、計2回連載の1回目)

▼第2回(近日公開)

――スポーツドクターを目指した経緯を教えてください。

 高校2年生に上がるときにおおよその進路を決めなければならなかったのですが、長くサッカーをしていたので何かスポーツに関わる仕事をしたいと思っていました。整形外科医の父に相談したところ、「整形しかないな」との返答でした。サッカーのチームドクターに憧れを持っていたので、チームドクターになるにはどうしたらいいかをあらためて父に尋ねると「いや整形でしょ!」という話になり、そこで方向性が決まった感じです。高校2年生から医学部を目指すコースで勉強を始めました。

 私は福岡の出身ですが、大学は宮崎(宮崎大学医学部)に行きました。大学の卒業生は出身地に戻る人が多いのですが、私は宮崎で覚えたサーフィンがやめられなくてそのまま宮崎に残り、宮崎大学医学部附属病院に入職しました。宮崎は整形外科医がスポーツチームの帯同を積極的に行う風習があり、現場寄りの活動で活躍されている先輩方が身近にいましたので、それも宮崎に残った理由の一つです。


――最初はサッカー専門ドクターを目指したのですね。

 はい、サッカー日本代表チームのチームドクターもされた樋口潤一先生(現:Mスポーツ整形外科クリニック院長)にずっとついていく形で、U-18やU-19のサッカー日本代表のチームドクターなどをいろいろと経験させてもらいました。チームドクターは3人で複数の試合を回すのですが、チーフドクターが樋口先生で、私ともう1人の医師がサブという形でした。

 スポーツドクターの選考はどうしてもコネの部分があります。医師としての実力もそうですが、スポーツを知らない医師には役割が回ってきません。どういう医師であるかを知ってもらい、「この人だったら現場に行っても大丈夫」というお墨付きをもらえないと上のクラスには行けない世界です。



――サッカー関係のスポーツドクターは日本にどのくらいいるのですか。

 正確には分からないですが、サッカー人口は多いので数百人規模だと思います。そうした中、トップのドクターになるとテレビにも出て目立ちますので、そのレベルに行くにはそれなりの実績も必要です。今は学会活動や論文も見られているようです。あとは人柄も。あまり癖の強い医師だと現場の監督から「もう来なくていい」と言われたりします。決定権があるのは監督で、監督の意向に沿う医療を提供できるかどうかを厳しく見られます。プロスポーツは選手にとって厳しい世界ですが、医師もスタッフも甘くない世界です。

――サッカー専門ドクターからサーフィン専門ドクターに転向した経緯を教えてください。

 しばらくは並行してやっていたのですが、サッカーは若手のドクターが育ってきました。一方で、サーフィンは誰もいなくて現場から必要とされ、次第に忙しくなって両立が難しくなってきたため、2012年のU-19日本代表のチームドクターで一区切りをつけ、サッカーからサーフィンに転向しました。

 サーフィンに関する医学研究を行う日本SURF臨床医学研究会というものがあるのですが、当時、その研究会で積極的に発表している先生が2~3人いました。その先生たちと懇意になり、オリンピックや世界大会も一緒に行かせていただきました。今もその先生方と一緒に活動しています。

――チームドクターの報酬はどのような感じですか。

 プロに関しては、サッカーの場合、10日間帯同したら10日分の報酬がサッカー協会から出ます。サーフィンも世界大会のような大きな大会になるとサッカーに負けないくらいの報酬が出ますが、例えば今週末(6月5日)に開催予定の第56回全日本サーフィン選手権大会の宮崎支部予選などは食事代が出る程度でほぼボランティアです。ただ、そういう地道な活動をしないと大きな大会の話も来ませんので、やらなければいけないというところではあります。

 アマチュアに関しては、どのスポーツもみんな行きたがらない金額です。押し付け合いではないですが、興味がない人にはつらい金額で、それよりも他の病院で当直した方がましという感じでしょう。ですので、そのスポーツが好きで、お金や家庭のことも二の次といった方が多いです。ただ、スポーツの現場で活躍することで医師としては宣伝になります。大会から病院に戻ると患者が殺到するといったこともあります。スポーツドクターは遠征などで病院にいない時間も多く、その時間は病院としてはマイナスです。そのため、病院にいる時にすごく忙しく働いて穴埋めをするという働き方をしているスポーツドクターは多いですね。

――サーフィンによる怪我や治療法について教えてください。

 サッカーとは全然違って、サーフィンではあまり怪我はしません。使い過ぎが原因の疲労性のものがほとんどです。サーフィンはずっと漕いでいるスポーツで、パドリングといってボードの上にうつ伏せになってクロールしている時間が大半を占めます。それにより、腰や肩が痛くなったり疲れたりというのがほとんどで、怪我は本当に少ないです。サッカーのような肉離れもほとんどありません。

 レベルが上がって波の上でジャンプするエアーという技ができるようになると、着地で失敗して膝の靭帯を切ったり足を骨折したりします。サッカーはアマチュアもプロも似たような怪我が多いのですが、サーフィンはアマチュアとプロで種類が違ってきます。サーフィンはそこが特徴的なところです。

――どういう治療を行うのですか。

 サーファーは基本的にアウトローな人が多く、毎日海に入りたい人ばかりなので、普通のスポーツ選手のような対応をしていると二度と病院に来なくなります。つまり、「やってはダメ!」「一週間安静!」などと極力言わないようにすること、そしてその場で診断をつけてあげることが大事です。

 骨折や靭帯断裂であっても、とりあえずは「海に漬かるだけならいいよ」「ギブスを巻いたまま濡れないようにしてやっていいよ」「少しくらい立つのだったらいいよ」と伝えます。まずはこのコミュニケーションスキルが大事です。その上で、MRIで痛みの原因を特定してその日のうちに治療方針を立てます。肩の痛みであれば肩の動きや使い方が間違っていますし、腰の痛みであれば弱い場所や固い場所が決まっているのでそれをリハビリで補正していきます。

 治療においては医師の出番はあまりなく、リハビリがほとんどです。その際、やはりサーフィンのことを分かっている理学療法士でないと適切な治療ができませんので、基本的にサーフィンをしている理学療法士にしか依頼しません。サーフィンはサッカー、野球、バスケなどに比べると競技人口がかなり少ないので、依頼できる理学療法士もかなり限られてきます。


――橘病院は人工関節手術を強みとしていますが、そうしたスキルを持つことがサーフィンドクターとしての強みにもなるのですか。

 これはサーフィンに限ったことではないですが、スポーツドクターが遠征などに帯同して病院を1カ月空けてしまうと、病院としては数千万円の売上減になります。従って、スポーツドクターは病院にいる時にいかに病院に貢献できるかが重要で、手術をたくさんしたり、外来の患者さんをたくさん診たりする必要があります。そうした中で、病院への貢献度が一番高くなるのが人工関節の治療で、スポーツドクターと人工関節治療をセットでしている先生は全国にたくさんいます。もちろんその治療に興味があることが前提ですが、勤務中にある程度結果を出さないと長い遠征には行けなくなります。


◆小島 岳史(こじま・たけし)氏

2003年に宮崎大学医学部卒業後、宮崎大学医学部附属病院医師(整形外科)、宮崎市郡医師会病院整形外科などを経て、2009年に医療法人橘会橘病院に整形外科医として入職。一般財団法人弘潤会野崎東病院整形外科などを経て、2021年に医療法人橘会橘病院整形外科の副院長に就任。サッカー専門のスポーツドクターとして、U-18、U-19サッカー日本代表のチームドクターなどを経験。その後、サーフィン専門ドクターとなり、国際サーフィン連盟(ISA)主宰の世界大会やオリンピックをはじめ、宮崎県サーフィン連盟(MSA)のメディカルサポートのコアメンバーとして活動している。

【取材・文=堀 勝雄(写真は病院提供)】


m3.com地域版 2022.07.08掲載
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